今回ご紹介するのは、小学校6年生のY・Nさんが書いてくださった自由作文です。
一言目のセリフは必ず「あれ、ここはどこだ。」から始めるというルールのもと書き始めました。
作文の題名は「ふるさと」。
だれにでもある身近なテーマですが、反対に身近すぎて改めて考えることが少ないテーマかもしれません。
今回の作文で一番気を使ったのは、登場人物の関係性でした。
それぞれの登場人物が、主人公とどのように関わり、どのような影響を及ぼしていくのか。
その関係性を詰めていくことで、物語の展開が決まっていきます。
ふたりで会話をしながら、どのような特徴を持った登場人物が出てくることで、物語の発展につながるのかを中心に考えていきました。
親友、仲間、ライバル、主人公を見守る存在…
さまざまな人物がからみ合い、物語が完成していきました。
この作文はボリュームがあるので、今回は第一回として、冒頭の部分をご紹介させていただきたいと思います。
ぜひ、最後まで楽しんでお読みください。
※この作文には地震の描写があります。
抵抗がお在りになる方はご覧にならないよう、お気をつけください。
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『ふるさと』
Y・N
「あれ、ここはどこだ。」
二〇一四年九月十五日、親友 清樹(しずき)がそうつぶやいたのを、祐奈は知る余地もなかった。
私、岡田祐奈は白藍(しらあい)市出身の小学六年生。白藍市日本の南の方の自然豊かで海のきれいな所だ。私は今、日本の小学生ではない。イギリスの小学六年生なのだ。先月、父の仕事の関係でこちらにこしてきて、二〇一四年九月二日の今日が、最初の登校日だった。イギリスは九月から年度が始まるから、ひっこしに丁度いいタイミングだったのだ。
早速、学校に向かうため、私は家を出た。れんがの建物と街路樹が並ぶ大通りをまっすぐ行って、その先を右に曲がると学校がある。学校は広く、英国のふんい気を感じる建物だった。ドキドキしながら校舎に入ると、二人の女の子が私に話しかけてきた。
「ハーイ、私はダイアナ。ここイギリス出身だよ。」
「私はチェヒョン。韓国出身なんだ。あなたの名前は何?」
「えっと、私は岡田祐奈です。日本人です。」
「え、本当?私たち、日本が大好きなんだ。友だちになろうよ。」
こう二人に言われた。二人とも明るくて、人当たりが良さそうだ。
ダイアナは金髪でオシャレで活発。いかにも西洋人といった感じがする。チェヒョンはおしとやかで髪が長い。なぜそんなチェヒョンと活発なダイアナの仲がいいのかは分からなかった。あまりに急に言われたものだからびっくりしたが、悪い人達ではなさそうだから、私はダイアナとチェヒョンと友達になることにした。
それからの学校生活はとても楽しかった。ダイアナとチェヒョンのおかげで新しい環境に慣れることができたし、日本とは違うゆるい校則や、敬語を使わない親しみやすい授業スタイルに私は大満足だった。なんと、学校の行き帰りの途中でお店に立ち寄ることも、髪を染めることもできたし、マニキュアやお化粧をすることだってできるのだ。
ただ、私はマイペースで鈍感だから、ハイテンションなみんなについていくのは大変だった。例えば、ある時はランチタイムの時、まったり食べていたら、いつの間にかみんなもう食べ終わって遊びに行っていたということがあった。しかし、私のことをよく思わない人もいるようだった。その一人がルーシーだ。ルーシーは私のクラスのボスという感じで、気が強くこわい。そして、私の前では決して笑顔を見せないのだ。
イギリスに来て二回目の週末には、家族みんなでロンドンに遊びに行った。有名な大英博物館に行ったり、サーカスを見たりした。また、私はミステリー小説が好きなため、シャーロックホームズの英語の本も読んでみた。そして家に帰り、ごろごろしながら、私はテレビ番組を見ていた。すると、しょうげきのニュースが耳に飛び込んできたのだ。
「速報です。日本時間 九月十五日午後六時十四分、白藍市を震源とした震度七の地震が起こりました。詳しい情報はわかっていませんが、現地では大きな被害が出たもようです。」
私達は言葉を失った。白藍市、そこは私達家族がイギリスに来る前に住んでいた所、なんなら二か月前に生活していた所だ。今もそこには、私の友達も、父の職場の人も、親せきもいる。
「これ、フェイクニュースだよね。」
母はそう言ったが、声は震えていた。本当に、白藍市で大地震が起こったのだ。だとしたら、今、友達の「森 清樹」の命はあるのだろうか。そう考えたとたん、体が動かなくなり、気が遠くなった。後で知ったが、私は気を失ってしまったらしい。その時、私は清樹と遊ぶ夢を見た。それは、楽しい楽しい夢だった。
清樹は、私の幼なじみだ。髪が短くて、やさしくて、何でも話し合える親友だった。けんかをしても、私に謝ってくれて、必ず私を許してくれて仲直りができた。幼稚園も小学校も一緒で、イギリスに来る前も同じクラスだった。出発の日も、空港まで見送りに来てくれた。本当に優しい子だった。
ハッと目が覚めた。すると、遠くで父と母が話しているのが見えた。父と母のその表情は暗かった。体を起こそうとしたら、いつの間にか父に話しかけられていた。
「おう、祐奈、起きたのか。残念だが、一時帰国できないそうだ。さっき会社の人に電話したんだが、イギリスに来て二週間で帰国するのはさすがに早すぎると言われてしまったよ。第一、白藍市の近くの空港も鉄道も地震の影響で閉さ(閉鎖)されているそうだ。今、市は孤立しているから、帰りようがないんだ。」
(あ、そうだった。地元で地震が起こったんだ。)
私は急にかこく(過酷)な現実に引き戻された。しかも一時帰国できないなんて…。私はまた呆然とした。
翌日、私は元気がなかったけど、学校に行った。でも、やっぱり楽しくなかった。友だちは、いとこは、今どうしているのだろう。そのことが頭の中でぐるぐる回っていた。私を心配してくれる声も、授業も全く耳に入ってこなかった。登下校中も、何度もつまずいて転びかけた。地震について学んだことはあったけれど、他人事だと思っていた。まさか自分の街で大地震が起こるなんて思ってもみなかった。
それから、何日も待ったけれど、結局九月中には一時帰国の知らせは来なかった。ようやくその知らせが届いたのは、地震から三か月後の十二月だった。それで、私たちは一度日本に戻ってきた。空港は復旧していたが、まだ崩れている住宅は多かった。道にはがれきがたくさん落ちていて、歩くのもやっとのことだ。大地震の後に何度か余震も起こったのだろう。いや、本当に余震は起こった。
まだ他人事だと思っている自分に腹が立った。私や清樹の家もボロボロだった。現地の生活を知っていたからこそ、がれきが散乱している物が見えた時、悲しみと苦しみが胸に押し寄せてきた。だから、避難所に行ってみた。
そこは、殺伐とした空間だった。正直私は、避難所はみんなで助け合って、笑顔があふれている温かい場所なのだと思っていた。でも、世の中はそんなに甘くなかった。極寒の中、ふかふかのベッドにも入れず、よく知らない人とも付き合わなければならない。本当に避難所生活は大変だなと思っていたところ、ある男の子に話しかけられた。
「もしかして岡田か。岡田だよな。来てくれたのか。」
話しかけてきたのは、「桜庭健人」だった。彼は勉強もスポーツもできる人気者で、顔が広い。だから、私の名前も知っている。
「うん。思ったよりもひどいありさまだったね。清樹と、あと先生とかクラスの子は無事なの?」
私は早口で、切羽詰まった様子でまくし立てた。
「清樹は…実はまだ見つかっていないんだ。先生とほとんどのクラスのヤツは避難所にいるんだが、五人いないヤツがいるんだ。その一人が清樹だ。清樹の家から近いのはここのはずなのにな。」
「そうなんだ。」
(あぁ、一縷の望みが消えてしまった。)
私は今にも涙があふれそうな顔を隠すため、その場から去った。白藍市にこのままいるのは苦しいと分かったから、その翌日、私はすぐにイギリスに戻った。
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