top of page
執筆者の写真まごめ国語教室

『ふるさと』第三回(自由作文・小学校高学年課題)

 


Y・Nさんが書いてくださった物語文『ふるさと』。


第三回の今回でご紹介はおしまいです。



この物語文は、構想から書き上げるまで、かなりの期間を要しました。


章を書き上げるごとに添削し、振り返り、「てにをは」や 文章表現を確認・修正しながら進めました。


特にその場面に適した表現で著すことにこだわりを持ち、時には類語辞典を引きながら物語を書き上げていきました。



本帰国の日を迎えた祐奈。

イギリスでできた友人たちに別れを告げ、母国日本に戻ります。

そこで、祐奈の新生活は再びどのように始まるのでしょうか。



物語の行く末を、ぜひご一読ください。




******





 翌朝、私たち家族は白藍市の空港に到着した。飛行機に乗って疲れたのと時差ボケで、しばらくの間うとうとしたが、外に出て日光を浴びた瞬間、鼓動が急に速くなった。

 空港を出て、しばらくの間、ドキドキしながら歩いていると、母が足を止めた。気になった私は、母の視線をたどった。そこには、私と同い年くらいの髪の短い少女が立っていた。


(清樹だ…。)


 私はもう、ほぼ確信した。でも、清樹は三年前、私や清樹の家の近くにも避難所にもいなかった。さらに、小学生のころと違って、清樹も雰囲気が変わっているかもしれない。

 あの少女は全くの別人なのだろうか。そう考えながらも、私の足は勝手に清樹と思われる少女の方へと向かっていた。


「あの…。」


私はその少女の肩を叩いて声をかけた。少女が清樹であれとねがいながら。すると、少女はふりむいた。


「あ、はい…祐奈!」


「清樹!」


私たち二人は同時に声を上げた。


「生きてたんだ、良かった。」


そう私が涙ぐんで言うと、清樹は、「ちゃんと生きてます。」と返した。

ふざけてはいたが、目元が少し赤くなっていた。

 

 それにしても、清樹は前と全然変わっていなかった。雰囲気も髪型も、肌の色も性格もそのままだったが、背丈は大分伸びていた。そして清樹も、「祐奈、全然変わっていないね。」といつもの笑顔で言ってくれた。

 

 それから、清樹に地震からの三年間をどう過ごしていたか聞いてみた。清樹はどうやら地震の起こった日、家族と隣の県にお出かけしていたらしい。その途中、あの大地震が起こった。幸い、清樹の家族は全員軽いけがで済んだが、隣の県も相当の被害が出たそうだ。

 

 震源地が白藍だと知った清樹一家は、家に帰ることは危険だから帰らないと判断し、それで、白藍市から遠く離れた清樹の母の実家、つまり清樹のおばあさんの家に少し住むことになった。最初は一か月だけ住むつもりだったが、その後、清樹のおばあさんが体調をくずされて、滞在期間を二か月程延長して、結局白藍市に戻ったのは翌年の一月らしい。


「そうなんだね。だから、あの時避難所にいなかったんだ。」


私がこう話すと、清樹は目を丸くした。


「避難所って…一時帰国してたの!? 私がいない間に。」


「そうだよ。私、清樹がいなくてショックを受けたんだよ。」


「そっか。なんかごめん。」


清樹は下を向いて申し訳なさそうにつぶやいた。それに対して、私ははげますように言葉をかけた。


「謝る必要はないよ。ところで、この街、生まれ変わったんだね。」


「そう。私が白藍市に戻った年の初めから、本格的に復興プロジェクトが始まったの。」


 今いる場所から見える白藍市の風景の全てが前と変わったというわけではなかった。前に会った自然も残されていたし、とびきり高いビルが建ったわけでもない。

 でも、商店や住宅はきちんと建て直されていて、前よりもグレードアップされている感じがした。あまり長く鉢花死してはいけないと思い、私は清樹に言った。


「じゃあ私、そろそろお父さんとお母さんの所に行かないといけないから、またね。」


「うん。」


私は清樹との思わぬ再会に笑みがこぼれにこぼれた。そして、清樹に会えて、少し晴れ晴れしい気持ちにもなった。



 帰国後二日間は、我が家はいろいろな手続きに追われた。私の家があったあそこは今は空き地らしく、私たちは結局マンションに住むことにした。高校の進学先も決まった。清樹と同じ学校だったため、私はほっとした。


 高校に入学してから二か月経ったある日、担任の橋本先生がこんな話をした。


「みなさんはもう高校生なので、そろそろ留学を視野に入れてみてください。学校が留学コースを用意しています。一番早くて、あと一か月後には行けますよ。では、資料を配りますね。」


資料の一ページ目には、行先の選択肢が書かれていた。行き先は、アメリカかオーストラリアか、イギリスだった。


(イギリスに留学したら、ルーシーやチェヒョンや、ダイアナに会えるかもしれない。)


 その日の休み時間、私は清樹に話しかけた。


「清樹ってさ、留学行く気ある?」


清樹が返事をするまでには、少し間があった。それでも、教室はがやがやしている。


「実は結構行ってみたいんだ。親がどう言うか分からないけど。」


「私も行きたいんだ。イギリスだったら友だちもいるから楽しそう!」


清樹も留学に行きたい気持ちがあるみたいだから、私と清樹それぞれ、親と話し合ってくることを約束して、その日は帰った。


 その日の夕食はそうめんだった。あまりのおいしさに箸が止まらず、たあいもない会話をしていたところ、お父さんがこんな話をし始めた。


「そういえば、違う部署の知り合いが海外に駐在することになってな。よく一緒に飯食ってたから、お父さんさびしくなるよ。」


(そうだ、留学のこと話さなきゃ。)


私はお父さんのその一言でぱっと思い出し、父と母に留学に行きたいと告げた。


「私、留学に行きたいんだ。今、清樹をさそってるところ。留学に行って、その経験を生かしてみたいんだ。」


「お父さんは、祐奈が行きたいって言うなら留学には賛成だよ。イギリスには友達もいるから良いんじゃないか。」


「お母さんも留学には賛成よ。でも、短期留学にしてちょうだい。お母さん、祐奈のこと心配だから。」


「本当?短期留学なら行って良いのね。行き先はイギリスにしようと思ってる。明日、先生から希望書をもらうね。あと、清樹に伝えておくよ。」


私がそう告げると、お父さんがほほえんだ。


「清樹ちゃんもさそったのか。心配事があったら、何でも相談してね。」


「お父さん、ありがとう。」


私はお礼を言ってから席を立った。その晩は、いつもよりもぐっすり眠れた気がした。


 翌朝、清樹に留学について聞いてみた。清樹も短期留学ならば行っても良いと言われたそうだ。そして早速、私たちは先生に希望書をもらった。それには詳しいことが書かれていた。期間は七月から十月で、現地ではホームステイをするそうだ。そして、私と清樹は希望書に署名し、親の署名ももらい、提出した。



 出発の日が迫る中、私は清樹から展望台に行こうとさそわれた。その展望台は、白藍市内の有名な山、赤花山の中腹にある展望台で、復興プロジェクトの一環として一昨年に作られたらしい。

 展望台に行く土曜日、私は山のふもとで清樹と合流した。お昼ご飯を食べ終えたばかりだ。今は梅雨の時期だけれど、今日は太陽の光がさんさんと降り注いでいる。


「展望台まで、どうやって行くの?」


私はおびえながら言った。もし、登山をするのならどうしようと思ったからだ。運動が苦手な私からしたら、登山は絶対にしたくない。清樹が答えた。


「直通バスが出てるから、それに乗るよ。」


「そうなんだ。」


私は胸をなで下ろした。


 バスに乗ったら、展望台までは意外に早く着いた。デッキに立って、街を見下ろしてみると、目の前には絶景が広がっていた。絶景といっても、とてもきれいな建物や世界遺産はない。でも、新しくなった住宅や、昔のままでいてくれた商店街、ところどころに立っている木、遠くに見える川、太陽に照らされてキラキラと光る海。これらが全て愛おしく思えた。

 そして、「私はここに帰ってきたんだな」って実感した。まあ、また海外に行くのだけれど。こうして、今日という一日が終わった。



 一週間後、出発の当日がやって来た。


「祐奈、荷物持った?」


お母さんが聞いてきた。


「うん。服ある、パスポートある、スマホある、充電器ある。完璧。」


私の胸はウキウキと高鳴っていた。


(ダイアナとチェヒョンとルーシー、ちゃんと空港で待っていてくれるかな…。)


昨夜、サプライズとして三人に連絡したら、三人共大喜びだった。そして、イギリスの空港で待っていてくれるそうだ。


「じゃあ、行こっか。」


お父さんが声をかけたので、私と父、母は空港へと向かった。


 空港に着いて、搭乗手続きを済ませ終えた後にすぐ、清樹と合流できた。


「こんにちは、森さん。お久しぶりです。」


「こんにちは、岡田さん。」


 親同士が話している間、子ども同士でもおしゃべりした。私と清樹と清樹の弟の三人で。清樹には弟がいて、その名も「律樹(りつき)」。小学五年生だそうだ。二人とも名前に「樹」という字が入っていて、二人とも優しい。みんなでしゃべっているうちに、アナウンスが流れた。


「十四時四十分発、ロンドン行きにお乗りになる方は搭乗口へお越しください。」


 もう飛行機に乗る時間だ。でも、私に不安な気持ちはない。むしろ、ワクワクしている。だって、大好きな友達と共に、大好きになった地へと学びに行くのだから。四か月間という短い時間だけれど、きっと充実した毎日になるはずだ。

 そして私は、先週、展望台から見た景色を思い出していた。あの美しい街並み。「ここ」がふるさとなんだなと、あんなにも強く感じたのはあの時が初めてだった。きっと、私にそう感じさせるために、清樹は連れてきてくれたんだろうな。だから、また四か月後、白藍市に戻ってこられると思うと、ほっとした。


(決してイギリスに行きたくないというわけではない。)


「じゃあ、行ってくるね。」


私と清樹は、声をそろえてみんなに言った。


「行ってらっしゃい。」


 私の家族と清樹の家族、合計五人の声が混ざり合っていて、その声がなんだか私たちの背中を押してくれているような気がした。こうして、私、岡田祐奈と森清樹はイギリスへと旅立って行った。


終わり。




******
















閲覧数:1回0件のコメント

Comentários


bottom of page