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執筆者の写真まごめ国語教室

『ふるさと』第二回(自由作文・小学校高学年課題)

 

 本日は、前回のつづきとして、小学校6年生 Y・Nさんが書いてくださった物語のつづきを掲載したいと思います。


物語は中盤。

渡英後、突如として主人公祐奈の故郷を襲った大地震。

祐奈は一時帰国しますが、親友の清樹の姿を見つけることはできませんでした。

傷心のまま、イギリスへ帰国する祐奈。

彼女の生活は、この後どうなってしまうのでしょうか。



******




 でも、苦しいのはそこからだった。まさか、五年後の本帰国まで日本に行けない戻れないとは思わなかったから。

 さらに、どこから聞きつけたか分からないが、地震が起こったのが私の地元だと知ったルーシーが、やたらと私にいじわるをするようになった。いすをかくしたり、愛用のかばんに落書きをしたりと、そのないような日に日にエスカレートしていった。


 彼女の目つきは、私の心をグサリと刺す。チェヒョンは私を気遣ってくれたが、心の暗い部分は取り去られるわけもなかった。家族のふんい気も少し変わってしまった。


 それから、私、ダイアナ、チェヒョンはルーシーに立ち向かう決意をした。あまりにもいじめがひどいからだ。そこでまず、私たちはルーシーについて調査し始めた。


 私が一番疑問に思っていたのは、なぜ私だけをきらうのかということだ。ルーシーは気が強そうだけれど、他の人には意地悪なことはしない。ダイアナとチェヒョンによると、ルーシーは数年前まで明るいふんい気だったのに、私が来てから随分と変わったらしい。


 ふつうの女の子と変わらない私がイギリスに居て目立つポイントとは「日本人」一点のみ。ルーシーが私をきらうのに、日本が関係しているのだろうか。


 後日、私たちはルーシーの行動を観察してみた。そこでわかったことは三つ。一つ目は、ルーシーは日本に来たことがあるということだ。彼女のバッグに日本のアニメのキャラクターのキーホルダーがついていた。これには、日本のアニメオタクのチェヒョンが真っ先に気づいた。あれは、かつて私も持っていた日本限定のグッズだ。


 二つ目は、ルーシーがおばあちゃん子だったということ。あるクラスメイトによる話では、ルーシーのおばあさんは数年前に亡くなったそうで、その時ルーシーはとても悲しんでいたらしい。

 

 三つ目は、交通マナーを人一倍守っているということだ。自転車に乗る時、交差点では必ず止まっていたし、ある授業のプレゼンテーションの時には、交通事故の危険性について話していた。


 (もしかして…。)


私の頭の中に一つの可能性が浮かび上がった。


 その一週間後、ルーシーがいつものように私に意地悪をしに来た。そのタイミングで私たち三人は、ルーシーを問い正した。事前に計画を練っておいたのだ。


「何よ。」


射るような目でルーシーが聞いてきた。


「何って、あなたにもう意地悪はやめろって言いに来たのよ。」


ダイアナは、ルーシーに近寄って言い放った。私はダイアナに続いた。


「あなた、前はおだやかだったのに、私がここに来てからここに来てから急に性格が変わったそうじゃない。特に半年前の地震の時から。あなたの変化には日本が関係しているのよね。」


ふだんはおっとりしている私が荒々しい口調で話すのに驚いたのか、ルーシーはだまりこんだ。


「私の予想はこう。あなたは何年か前に家族で日本に来た。その時、一緒だったあなたのおばあちゃんは、日本で交通事故で亡くなられた。大きなショックを受けたあなたは日本が大嫌いになった。」


私がそう言い放つと、ルーシーの閉じていた口が開いた。


「そうよ。おばあちゃんは死んだのよ。旅行先で、日本人の過失運転のせいで。そしたら、地震まで起こっちゃって、あの時もたくさんの旅行客が死んだらしいじゃない。そんな国、そんな国の人が悪くないっていうの?」


「確かに、おばあさんが亡くなられたのは、日本人ドライバーのせいだよ。でも、地震が起こったのは人のせいじゃない。日本人みんなが悪い人だというわけじゃない。それだけは分かってほしいの。だから、私をいじめるのも、日本人を責め立てるのも、もうやめて!」


私は今までの気持ちを全て吐き出した。


すると、ルーシーは、


「分かったわよ。もうやめるわよ。」と、ばつが悪そうに言った。


ルーシーが思ったよりもすぐに納得したので、私は彼女を許すことにした。


「でも、日本のアニメだけは嫌いになれなかったんでしょ。だって、かばんにキャラクターのキーホルダーが付いていたもの。」


チェヒョンが少し表情を和らげて指摘した。


「うん。」


ルーシーは小声でそう答えた。



こうして和解した私、ダイアナ、チェヒョンとルーシーは、意外にも早く打ち解けられた。アニメの話で盛り上がったからだ。そして、それからのルーシーが私のことをいじめることもなくなった。私の激動の半年間は終わったのである。



 三年後、私は、イギリスのみんなと共に中学校を卒業した。それと同時に、四年間の滞在期間を終えた我が家は、いよいよ日本に帰ることになった。

 小学六年生の時以来、日本には戻っていない。あのがれきが散乱していた、殺伐としていた町はどうなったのだろうか。そして、清樹に会えるのだろうか。

 第一、私の家も地震でくずれてしまっていたから、新しい家に住まなければならない。母国に戻れるうれしさが半分、新しい生活への不安が半分、私の心の中はごちゃ混ぜだった。


 帰国当日になった。空港まで、ダイアナとチェヒョン、ルーシーが見送りに来てくれた。そして、本当に別れる時がやって来た。


「私、ユウナのような友達に出会えて良かった。」とチェヒョン。いつにも増して明るい笑顔だった。


「いろいろあったけど、今までありがとう。」


ルーシーがすがすがしく言った。


「絶対にユウナとの思い出、忘れないから。」


笑顔の二人に対して、ダイアナは少し涙目で口にした。私はこう返した。


「また絶対ここに来るからね、今まで本当にありがとう。グッバイ!」


温かい眼差しに見守られながら、私と父と母は、搭乗口へと向かったのだった。





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